賃貸の重説で落ちやすい新住宅市街地開発法32条
- 公開
- 2026年9月24日
- 更新
- 2026年10月9日
- 法令・制度の確認
- 2026年10月9日 時点
建物の貸借の重要事項説明では、「法令に基づく制限」の欄はほとんどの物件で空きます。政令が建物の貸借について名指ししている制限は3つしかなく、どれも特定の開発事業の区域に限られるからです。その3つの筆頭が新住宅市街地開発法32条1項です。
この制限は、建物の使い方ではなく、貸すこと自体に掛かります。賃貸用のひな形で「該当なし」と書く前に確かめておきたい理由と、落としたときに起きうることを整理します。
建物の貸借で説明する制限は3つだけです
宅地建物取引業法35条1項2号は、説明する制限の範囲を「契約内容の別」に応じて政令に委ねています。受けているのが施行令3条で、建物の貸借は3項が定めます。
建物の貸借の契約については、新住宅市街地開発法第三十二条第一項、新都市基盤整備法第五十一条第一項及び流通業務市街地の整備に関する法律第三十八条第一項の規定に基づく制限で、当該建物に係るものとする。
売買では64号に及ぶ列挙が、建物の貸借ではこの3つまで絞られています。絞られた後も残っている以上、該当する物件では賃貸でも説明の対象です。契約の別で範囲が変わる構造は、法令に基づく制限の調べ方で扱いました。
32条1項は、貸すこと自体に承認を求めています
新住宅市街地開発法32条1項の本文は次のとおりです。
第二十七条第二項の公告の日の翌日から起算して十年間は、造成宅地等又は造成宅地等である宅地の上に建築された建築物に関する所有権、地上権、質権、使用貸借による権利又は賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利の設定又は移転については、国土交通省令で定めるところにより、当事者が都道府県知事の承認を受けなければならない。
| 要素 | 条文の定め |
|---|---|
| 期間 | 工事完了の公告(27条2項)の日の翌日から10年間 |
| 対象 | 造成宅地等と、その上に建築された建築物 |
| 権利 | 所有権・地上権・質権・使用貸借による権利・賃借権その他の使用収益を目的とする権利の設定または移転 |
| 承認を受ける者 | 当事者。貸借なら貸主と借主 |
| 除かれる場合 | 当事者の一方が国・地方公共団体・地方住宅供給公社などである場合、相続などの一般承継、競売、収用など(1項ただし書) |
承認は形式だけの手続きではありません。知事は、権利を設定する者が不当に利益を受けないか、相手方が処分計画の定める利用の規制に従って使うかを考えて処分します(32条2項)。承認に条件を付けることもできます(同4項)。施行規則19条の申請書には、権利の内容と対価、設定後の建物の用途を書く欄があります。賃料と用途まで、承認の審査に載るということです。
確かめる順序
- 事業地の中かどうか、当たりを付けます。施行者は宅地を譲り渡すとき買戻しの特約を付けなければならず(33条1項)、登記記録にこの特約が残っていれば手がかりになります。工事完了の公告から10年間は、市町村役場に区域を示した図書が備え置かれて閲覧でき(34条2項)、区域内には知事が標識を置きます(同3項)。
- 工事完了の公告日を確かめます。公告は事業地ごと、工区を分けた場合は工区ごとに出ます。「古いニュータウンだから」では、10年を過ぎたとは言えません。
- 10年の内側なら、当事者の顔ぶれを見ます。貸主が地方住宅供給公社などであれば、1項1号で承認は要りません。それ以外なら、承認を受けたか、受ける段取りになっているかを確かめます。
- 欄に書きます。根拠の条文、公告日、承認の要否と進み具合です。10年を過ぎていた場合も、何で確かめたかを残しておきます。書面の上では、確かめて外れたのか、確かめずに空けたのかの区別がつかないからです。
どこまでが記録で、どこからが当事者の側か
32条1項は所有権の移転も対象にしており、売買・交換の重要事項説明でも施行令3条1項12号に挙がっています。売買では、今回の取引の承認に加えて、売主が取得したときの承認も効いてきます。承認を受けずに移転していれば、それは33条2項の買戻しの事由です。
掛かるかどうかを決める事実を、確かめる場所ごとに分けると次のようになります。
| 事実 | どこで確かめるか |
|---|---|
| 事業地の中か | 公告から10年間は、市町村役場の図書(34条2項)と現地の標識(同3項)で確かめられます。10年を過ぎると備え置きの義務がなくなり、同じ窓口で確かめられるとは限りません。 |
| 買戻しの特約 | 登記事項証明書で確かめられます。買戻しの期間の定めは登記事項で(不動産登記法96条)、33条1項はその期間を公告の日の翌日から10年を経過する日までとしています。10年の終わりの手がかりになりますが、公告日そのものは別に確かめます。 |
| 工事完了の公告日 | 公告は知事が行います(27条2項)。どの公告が物件の事業地・工区に当たるかは、都道府県の担当課への照会で確かめます。 |
| 今回の取引の承認 | 承認を受けるのは当事者で、登記には出ません。申請したか、承認に条件が付いたかは当事者の側にあり、要確認です。 |
| 売主が取得したときの承認 | これも登記には出ません。売主の手元に承認の書類が残っていなければ、確認不能として残ることがあります。 |
下の二つは、調べる側がどれだけ足を運んでも記録からは埋まりません。埋まらないまま「該当なし」に丸めず、要確認・確認不能のまま宅建士に返すのが調査の側の仕事です。納品物の見本のチェックリストで、確認済・要確認・確認不能を分けて残しているのはそのためです。
承認を待つ日数は、どこまで書面に載せられるか
10年の内側で承認が要ると分かると、次に問われるのは引渡しの日に間に合うかです。行政手続法は、処分をする行政庁に審査基準を定めて公にすること(5条)と、標準処理期間を定めるよう努め、定めたら公にすること(6条)を求めています。32条1項の承認も、都道府県の公表資料で確かめられます。
たとえば青森県は、32条1項の承認について、法令に判断基準が具体的かつ明確に定められているとして審査基準を設けず、標準処理期間を15日(県の休日を含む)と公表しています。日数は都道府県ごとに違い、定めていないところもありえます。
| 事実 | 区分 |
|---|---|
| 審査基準と標準処理期間(公表の有無、日数、出典、確認日) | 確認済にできます。公表資料の写しを添えます。 |
| 申請をいつ出すか | 当事者の側にあり、要確認です。標準処理期間は申請が窓口に届いた日から数えます。 |
| 承認が下りる日と、条件が付くか | 確認不能です。標準処理期間は通常要する目安で、承認の日を約束するものではありません。 |
公表された日数から逆算して引渡しの日を決めるかは、契約の側の判断です。調べる側が渡せるのは、日数とその出典、申請の日がまだ決まっていないという事実までで、承認の日を見込みで埋めることはしません。照会の記録の残し方は法令に基づく制限の調べ方で書きました。
説明を落としたときに起きうること
いずれも条文から読める筋で、個別の事案の結論ではありません。
| 起きうること | 根拠 |
|---|---|
| 承認を受けないまま建物を借主に引き渡し、貸主が罰則の対象になります。6月以下の拘禁刑または20万円以下の罰金です。借主も承認を受ける当事者の一人ですが、知らされていなければ手続きに関わりようがありません。 | 新住宅市街地開発法32条1項・55条2号 |
| 契約の後で承認が要ると分かり、承認が下りるまで引き渡せなくなります。条件付きの承認で、契約で決めた使い方と食い違うこともあります。入居日の延期や契約の見直しをめぐって、貸主・借主・媒介業者の間で争いの種になります。 | 同32条1項・4項 |
| 32条1項の違反は、施行者が敷地を買い戻す事由になります。登記された買戻しは第三者に対抗でき、その後に対抗要件を備えた賃借人が売主に対抗できるのは、残存期間中1年を超えない期間に限られます。反対に、承認を受けて権利を持つ者がいれば、買戻権は行使できません。 | 同33条2項・3項、民法581条 |
| 説明した業者の側では、35条1項の違反は業務停止の対象に挙がっています。「賃貸のひな形に欄が無かった」は理由になりません。 | 宅地建物取引業法35条1項・65条2項2号 |
賃貸の重要事項説明は件数が多く、ひな形で回すのが普通の工程です。建物の貸借に売買の一覧を当てると書きすぎる、という失敗は前の記事で挙げました。ここで起きるのはその反対側で、範囲が狭いと知っているからこそ、確かめずに空けてしまうという落とし方です。
この工程のうち、物件が事業地の中にあるか、公告から10年を過ぎたかを確かめて、根拠と確認日をそろえる部分は、手元から離しても形が崩れません。離せないのは、承認の要否をどう説明するかの判断と35条書面への記名・説明、そして当事者が自ら行う承認の申請です。
確かめられたこと・確かめていないこと
確かめられたのは、施行令3条3項が名指しする規定が3つであること、新住宅市街地開発法32条1項が賃借権を含めて当事者に知事の承認を求めていること、承認なしの引き渡しに55条2号の罰則があること、違反が33条2項の買戻しの事由になることです。民法581条、施行規則19条、宅地建物取引業法65条2項2号とあわせて、e-Gov法令検索の現行条文で読みました。2026-09-29 に、施行令3条1項12号、新住宅市街地開発法27条2項・33条1項・34条、不動産登記法96条の文言を追加で確認しています。2026-10-09 に、行政手続法5条・6条と、青森県が公表している32条1項の承認の審査基準・標準処理期間を確認しました。
確かめていないことも書いておきます。承認を受けずに結んだ賃貸借が私法上どう扱われるかは、条文に定めがなく、この記事では判断していません。敷地が買い戻されたとき、その上の建物の賃貸借にどう響くかも同様です。33条は買戻しの特約を付けることを義務づけていますが、その登記がどの物件にも必ず出ているかは確かめていません。承認申請の窓口や標準処理期間は都道府県ごとに異なり、確かめたのは青森県の公表だけです。いま工事完了の公告から10年の内側にある事業地がどれだけあるかも、確かめていません。公告から10年を過ぎた後に、市町村が図書を引き続き閲覧させているかも、確かめていません。
参照した一次情報
- 宅地建物取引業法 第35条第1項第2号・第65条第2項(e-Gov法令検索)
- 宅地建物取引業法施行令 第3条第1項・第3項(e-Gov法令検索)
- 新住宅市街地開発法 第32条〜第34条・第55条(e-Gov法令検索)
- 新住宅市街地開発法施行規則 第19条(e-Gov法令検索)
- 民法 第579条・第581条(e-Gov法令検索)
- 不動産登記法 第96条(e-Gov法令検索)
- 行政手続法 第5条・第6条(e-Gov法令検索)
- 申請に対する処分に関する審査基準・標準処理期間(新住宅市街地開発法)(青森県)
上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。