古い抵当権と時効 ── 20年を待つ前に確かめる3つのこと
- 公開
- 2026年8月29日
- 法令・制度の確認
- 2026年8月29日 時点
売買の調査で登記事項証明書を取ると、何十年も前の抵当権が抹消されないまま残っていることがあります。決済までに片づくのか、重要事項説明書にどう書くのか。まず出てくるのはこの二つで、そこで「債権は10年、抵当権は20年」という数字が持ち出されることがあります。この数字は、条件を落とすと結論が変わります。
債権が消えれば、抵当権も同時に消える
民法396条は、抵当権の消滅時効についてこう定めています。
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
読み方は二つあります。ひとつは「抵当権だけが先に時効で消えることはない」。もうひとつはその裏返しで、担保する債権が時効で消えれば、抵当権も同時に消えるということです。抵当権は債権を担保するための権利ですから、担保される債権が残っていなければ抵当権も残りません。被担保債権の時効が完成しているなら抵当権について20年を待つ理由はない、というのはこの条文から出てきます。
抵当権を財産権として見た20年の定めは、これとは別にあります(民法166条2項)。ただし396条があるため、債務者と抵当権設定者との関係では、この20年で抵当権だけが消えることにはなりません。20年が働くのは、それ以外の者との関係に限られます。抵当不動産を債務者・設定者でない者が時効取得した場合に抵当権が消滅するという定めもありますが(民法397条)、これも当事者以外の話です。
確かめる3つのこと
1. いつ生じた債権か
現在の民法166条1項は、債権の消滅時効を二本立てで定めています。債権者が権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年で、先に来たほうで完成します。返済期限の定まった貸付金のように債権者が期限を知っている場合、実務上は5年のほうが先に来ます。
ただしこれは、改正法の施行日である2020年4月1日以後に生じた債権の話になります。改正法の附則は、施行日前に生じた債権の消滅時効の期間について「なお従前の例による」と定めており、施行日前の債権は旧法の期間で考えることになります。登記に残る古い抵当権の被担保債権は、多くが施行日前に生じたものです。「10年」という数字が当てはまるのはこちら側で、施行日以後の債権にそのまま当てると、期間を長く見積もることになります。
2. 誰との関係の話か
時効は、誰と誰の関係かで結論が変わります。396条が「債務者及び抵当権設定者に対しては」と限っているのがその例で、同じ20年でも、相手が債務者・抵当権設定者なのか、それ以外なのかで意味が違います。
登記記録を見るときは、設定の年月日・債権額・弁済期・登記名義人に加えて、抵当権設定者が誰か(現在の所有者と同じか、前の所有者か)、債務者が誰かを拾っておきます。この二つが分からないまま期間だけを数えても、どの条文の問題なのかが決まりません。
3. その「20年」はどの20年か
実務で口にされる「20年」には、少なくとも三つの別々の根拠があります。
| 根拠 | 期間 | 中身 |
|---|---|---|
| 民法166条2項 | 20年 | 債権・所有権以外の財産権の消滅時効。抵当権も含まれますが、396条により債務者・抵当権設定者との関係では働きません |
| 不動産登記法70条4項後段 | 20年 | 共同で登記の抹消を申請すべき者の所在が知れない場合に、被担保債権の弁済期から20年を経過し、その後に債権・利息・遅延損害金の全額に相当する金銭を供託したとき、登記権利者が単独で抹消を申請できます。時効ではなく登記手続の特例です |
| 民法166条1項 | 5年/10年 | 被担保債権そのものの消滅時効。そもそも20年ではありません |
「20年経っているから抹消できる」と言われたときに指されているのは、多くの場合は二つ目です。ただしこれには所在が知れないことという前提と、全額の供託という手当てが要ります。要件を確かめないまま決済の段取りに乗せると、抹消が間に合いません。なお、共同して申請すべき相手が解散した法人である場合には、弁済期から30年かつ解散の日から30年という別の定めもあります(不動産登記法70条の2)。
つまずきやすい点
期間が過ぎただけでは消えない
民法145条は、時効は当事者が援用しなければ裁判所がこれによって裁判をすることができない、と定めています。消滅時効の場合の「当事者」には、保証人・物上保証人・第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者が含まれます。期間の経過は条件のひとつで、援用があってはじめて効果が生じます。誰が援用できるのか、実際に援用されたのかは、期間の計算とは別の確認になります。
「抵当権消滅請求」は別の制度の名前
民法379条以下の「抵当権消滅請求」は、抵当不動産の第三取得者が登記をした各債権者に代価または金額を提供し、その承諾を得て払い渡すか供託することで抵当権を消滅させる手続を指します(民法383条・386条)。主たる債務者・保証人およびこれらの者の承継人は、これをすることができません(民法380条)。時効を理由とする場合に求めるのは抵当権の抹消登記手続で、この制度とは別のものです。同じ言葉のまま話を進めると、司法書士や相手方との間で食い違います。
抹消されるまでは、登記された権利として書く
宅地建物取引業法35条1項1号は、重要事項説明の対象として「当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名」を挙げています。時効を主張できそうだという見込みは、登記記録の状態を変えません。抹消が完了していない限り、登記された権利として記載することになります。見通しを添えるとしても、登記が残っているという事実と、抹消の予定という見通しは分けて書きます。
記録を揃える工程と、判断する工程
ここまでの確認のうち、登記記録を遡って設定の年月日・債権額・弁済期・登記名義人・債務者を拾い、どの条文の問題として整理されるのかを一覧にするところまでは、説明と記名の手前で切り出せます。一方、時効を援用するか、どの手続で抹消へ持っていくかの判断は、当事者と専門の士業に残ります。記録を揃える工程と、判断する工程は、分けて置くことができます。
確かめられたこと・確かめていないこと
- 確かめたこと ── 上に引いた条文は、この記事の確認日時点の現行条文を e-Gov 法令検索で確認しました。改正法の施行日は法務省の公表によります。
- 確かめていないこと ── 個別の登記記録がどの類型に当たるか。被担保債権がいつ生じたか、援用できる者が誰か、所在が知れないといえるかは、記録と事情を見なければ決まりません。
- この記事は一般的な条文の関係を整理したもので、個別の事案についての判断ではありません。実際の取扱いは、登記記録と事情に即して、依頼元の宅地建物取引士および専門の士業のご判断によります。
参照した一次情報
- 民法 第145条・第166条・第379条〜第386条・第396条・第397条(e-Gov法令検索)
- 不動産登記法 第70条・第70条の2(e-Gov法令検索)
- 宅地建物取引業法 第35条第1項第1号(e-Gov法令検索)
- 民法の一部を改正する法律(債権法改正)について(法務省)
上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。