代理と媒介で報酬のルールが違う理由 ── 天井は同じ、違うのは割り振り
- 公開
- 2026年10月4日
- 法令・制度の確認
- 2026年10月4日 時点
代理でも媒介でも、取引1件で受けられる報酬総額の天井は同じです。違うのは、その総額を依頼者1人がどこまで負担してよいかという割り振りです。
貸主から募集を代理で頼みたいと言われたとき、あるいは相手方に別の業者が代理で付いているとき、報酬をどう受けるかで迷うことがあります。報酬告示は代理と媒介を別々の条で定めていて、上限の書き方も違います。以下では、相手方に業者が付いているかどうかで報酬の受け方がどう変わるかも、ケース別に整理します。
上限は取引1件で決まっている
宅地建物取引業法46条1項は、代理又は媒介に関して受けられる報酬の額を国土交通大臣が定めるとし、2項はその額を超えて受けることを禁じています。報酬告示(昭和45年建設省告示第1552号)は、売買・交換の媒介を第二、代理を第三、貸借の媒介を第四、代理を第五に置いています。運用は、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」第46条第1項関係が示しています。
誤解されやすいのは、双方に代理人が立つ場合です。貸借の代理の上限は「依頼者から1.1倍」と書かれているので、双方に代理人が立てば各1.1倍、合計2.2倍まで受けられるように読めます。しかし通達は、報酬の額は取引物件一件についての額であり、双方が別々の業者に代理又は媒介を依頼した場合は、双方の代理人の受ける額の合計が上限の範囲内でなければならない、としています(第46条第1項関係3)。
売買も同じ形をしています。告示第二の計算額を「基本額」と呼ぶと、次のようになります。
| 形 | 依頼者1人から | 取引全体 |
|---|---|---|
| 媒介 | 基本額以内(依頼者のそれぞれ一方からの限度額) | 双方から受けて基本額の2倍 |
| 代理 | 基本額の2倍以内 | 相手方からも受けるなら合計で基本額の2倍 |
告示第三ただし書と通達(第46条第1項関係2(2))により、代理が関わる取引は、関与した業者が複数でも総額が基本額の2倍以内に収まります。賃貸借でも売買でも、天井は取引1件の総額で揃い、違うのは依頼者1人が負担してよい上限だけです。
報酬の受け方は、自分が代理か媒介かに加えて、相手方に別の業者が付いているかで変わります。以下は居住用建物の賃貸借で、こちらが貸主側に付く場合です(倍率は借賃の1月分に対するもので、消費税等相当額を含みます)。
| ケース | こちらが貸主から受けられる上限 | 取引全体の上限 | 0.55倍を超えるための承諾 |
|---|---|---|---|
| 代理/借主は業者に依頼していない | 1.1倍 | 1.1倍(借主からも受けるなら合計で) | 定めなし(告示第五) |
| 代理/借主にも別の代理業者 | 1.1倍から相手方業者の受領分を引いた残り | 双方の代理人の合計で1.1倍 | 定めなし(告示第五) |
| 媒介/1社が貸主・借主の双方から依頼 | 原則0.55倍 | 1.1倍 | 依頼を受ける時点で、多く払う側から |
| 媒介/借主にも別の媒介業者 | 原則0.55倍 | 双方の業者の合計で1.1倍 | 依頼を受ける時点で、各業者が自分の依頼者から |
代理で、相手方が業者を介さない場合
代理業者は貸主1人の側に立ち、貸主のために動きます。借主はどの業者にも依頼していないので、借主の側には報酬を払う相手がいません。1.1倍の枠を使うのはこちらだけなので、貸主から1.1倍まで受けられます。媒介のような0.55倍の縛りや、依頼時の承諾の要件は告示第五にありません。
例外は、こちらが借主の相談にも乗り、借主からも報酬を受ける場合です。通達のいう媒介的行為に当たりえて、貸主分と借主分を合わせて1.1倍以内に収めます。
双方にそれぞれ代理業者が付く場合
相手方の代理業者は借主の側に立ち、借主のために動きます。こちらから見れば、専門知識のある借主が交渉相手になった形です。
ただし報酬は、双方の代理人の合計で1.1倍以内です。たとえば相手方の代理業者が借主から0.55倍を受けるなら、こちらが貸主から受けられるのは残りの0.55倍までです。合計をどう分けるかは、告示にも通達にも定めがありません。
なお、このケースを「双方代理」と呼ぶのは避けてください。双方代理は、1社が両方の当事者の代理人になることを指し、民法108条1項で原則として禁じられています。
媒介で、1社が両方から依頼を受ける場合
媒介で相手方が別の業者を付けないと、相手方もその業者とやり取りするうちに、たいてい依頼者になります。賃貸の媒介では、宅建業法34条の2のような書面化の義務がありません。借主が部屋探しを頼んだ時点で、借主も依頼者です。
この形では、貸主から0.55倍、借主から0.55倍、合計1.1倍が原則です。代理と違い、相手方が払わない場合でも、依頼者から1.1倍を丸ごと受けることはできません。
一方から0.55倍を超えて受けるには、依頼を受ける時点で、多く払う側の承諾が必要です。借主が仲介手数料として1.1倍を払うなら、必要なのは借主の承諾で、貸主の承諾ではありません。仲介手数料は、この媒介の報酬そのものです。
借主が業者を通さず貸主と直接契約する場合は、媒介そのものが入っていません。
貸主側・借主側に別々の媒介業者が付く場合
各業者は、それぞれ自分の依頼者から受け取ります。貸主側の業者が貸主から0.55倍、借主側の業者が借主から0.55倍を受ければ、合計1.1倍で収まります。
借主側の業者が依頼時に承諾を得て借主から1.1倍を受けると、枠はそれで埋まり、貸主側の業者は貸主から報酬を受けられません。両方の業者がそれぞれ依頼者から1.1倍の承諾を得ていても、合計は1.1倍が上限です。その分け方は告示にも通達にも定めがなく、業者どうしの調整で決まります。
割り振りが違う理由
違いの根は、代理と媒介で業者の立ち位置が違うことにあります。
| 代理 | 媒介 | |
|---|---|---|
| 誰の側に立つか | 依頼者(本人)1人の側 | 両当事者の間 |
| 契約の意思表示をするのは | 代理人(効果は本人に直接帰属:民法99条) | 当事者本人 |
| 相手方の位置づけ | 依頼者ではなく、交渉の相手 | 通常はもう一方の依頼者 |
| 報酬の負担 | 本人1人が総額まで負担できる | 両者に割り振られる |
民法99条は、代理人が権限内で本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接に効力を生ずると定めています。代理人は本人に代わって契約を結び、本人1人のために取引を最後まで進めます。
媒介では、契約を結ぶのは当事者自身です。業者は両者の間に立ち、契約が成立するよう尽力します。告示第四が「依頼者の双方から受けることのできる報酬の額の合計額」と書くのは、一つの業者が両方の当事者から依頼を受けることを前提にしているからです。
そのため媒介では、売買なら依頼者のそれぞれ一方から基本額まで、居住用の賃貸借なら原則として一方から0.55倍までと、負担が両者に割り振られます。代理では、媒介なら両者で分け合う総額を本人1人が負担できます。
ただし代理人が相手方との間でも媒介的な行為をし、相手方からも報酬を受けるなら、両方を合わせて総額の天井に収めます(告示第三・第五のただし書、通達 第46条第1項関係1(2)②・1(4))。立ち位置が変われば割り振りは変わりますが、取引1件の総額という天井は動きません。
報酬のほかに分かれるルール
依頼者1人の側に立つか、両者の間に立つかという違いは、報酬以外の定めにも表れます。
| 論点 | 代理 | 媒介 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1社が両方の当事者に付けるか | 同一の法律行為で当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなされる(債務の履行と、本人があらかじめ許諾した行為を除く) | 双方から依頼を受けることが告示第四の前提になっている | 民法108条1項/告示第四 |
| 知っていた事情の扱い | 意思表示の効力に影響する事情を知っていたか等は、代理人について決する | 契約の意思表示をするのは当事者本人 | 民法101条1項・2項 |
| 広告・注文時の表示 | 代理人として成立させるか、媒介して成立させるかの別(取引態様の別)を明示する | 同左 | 宅建業法34条 |
| 依頼の契約 | 売買・交換の代理契約には、媒介契約の規定(34条の2)が準用される | 売買・交換の媒介契約に34条の2(貸借には書面化の定めなし) | 宅建業法34条の2・34条の3 |
| 35条の説明の相手 | 取引の相手方又は代理を依頼した者 | 媒介に係る取引の各当事者 | 宅建業法35条1項 |
| 37条書面の交付先 | 相手方及び代理を依頼した者 | 契約の各当事者 | 宅建業法37条1項・2項 |
35条の説明は、いずれの場合も「その者が取得し、又は借りようとしている」宅地建物についてのものです。通達は代理契約について、通常は契約の相手方・対象物件・取引価額等が確定した後に代理権の授与を受けることとし、代理権の範囲は具体的に列挙することが望ましいとしています(第34条の2関係10)。
101条の構造からは、代理人が知っていた事情が本人の側の事情として扱われる場面がありえます。代理を引き受ける業者にとっては、相手方から受けた説明や告知の重みが、媒介のときとは変わるということです。
つまずく点
双方の代理人の合計を見ていない
自分の依頼者から受ける額だけを告示第五に照らすと、相手方の代理人の受け取りと合わせて天井を超えることがあります。通達は双方の代理人の合計で見るとしているので、相手方に別の業者が付いている取引では、相手方の業者がいくら受けるかを確かめないと、上限内かどうかを判断できません。
代理のつもりで、媒介的行為もしている
貸主を代理しながら借主の相談に乗り、借主からも報酬を受けると、通達のいう「代理行為とあわせて媒介的行為が行われる場合」に当たりえます。その場合は貸主分と借主分の合計で1.1倍以内です。名目が代理でも、相手方から何を受けているかで枠が決まります。
0.55倍を超える承諾の時期と相手
居住用建物の賃貸借の媒介で、一方から0.55倍を超えて受けるには、依頼を受けるに当たって承諾を得ておく必要があります。通達は、依頼後に得た承諾はこれに当たらないとしています。承諾を取るのは多く払う側で、借主から1.1倍を受けるなら借主の承諾です。
賃貸の媒介には書面化の義務がないため、依頼がいつ成立したかがあいまいになりがちです。借主が内見や仮申込を済ませた後に初めて1か月分と知らされた事案で、東京高裁は2020年1月14日、事前の承諾がなかったとして超過分の返還を命じた東京地裁判決を維持しました(報道を引いた解説)。
代理にはこの縛りがありませんが、媒介と代理を取り違えたまま承諾の手当てを省くと、媒介の枠を超えることになります。
表示と実態の食い違い
報酬の割り振りも、35条・37条の相手も、代理か媒介かで変わります。34条の取引態様の表示を、実際に引き受けた形と揃えておかないと、どの枠で報酬を受け、誰に書面を交付すべきかの説明がつかなくなります。
報酬を決める前に
報酬を決める前に、その取引で自分が代理なのか媒介なのか、相手方に別の業者が付いているか、付いているならその業者がいくら受けるかを確かめてください。媒介で一方から0.55倍を超えて受けるなら、多く払う側の承諾を依頼を受ける時点で得ているかも見ておきます。天井は取引1件で決まっているので、相手方の業者の受け取りも含めて合計を見る必要があります。個別の取引への当てはめは、免許行政庁の窓口で確かめるのが確実です。
確かめられたこと・確かめていないこと
- 確かめたこと ── 報酬告示は国土交通省が掲載する令和6年7月1日以降版の原典で、解釈・運用の考え方は令和8年4月1日施行版の原典で確認しました。宅地建物取引業法と民法の条文は、確認日時点の現行条文を e-Gov 法令検索で確認しました。
- 確かめていないこと ── 双方に代理人(または媒介業者)が立つ場合に、合計の上限を業者間でどう配分するかを示した一次情報には当たれていません。
- 確かめていないこと ── 「媒介的行為」に当たるかどうかの判断基準について、通達の文言を超える運用や監督処分の事例は確認していません。
- 確かめていないこと ── 仲介手数料の承諾時期をめぐる2020年1月14日の東京高裁判決は、報道とそれを引いた解説で確認したもので、判決文の原文には当たっていません。代理と媒介の区別が争われた裁判例にも当たっていません。
- 長期の空家等の特例(告示第九・第十)も代理と媒介で並行して定めがあります。詳しくは長期の空き家等の貸借の媒介 ── 報酬の特例が使える物件、使えない物件で整理しています。
- この記事は告示・通達・条文の関係を一般的に整理したもので、個別の事案についての判断ではありません。実際の取扱いは、依頼元の宅地建物取引士のご判断によります。
参照した一次情報
- 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額 令和6年7月1日以降(国土交通省)
- 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方 令和8年4月1日施行版(国土交通省)
- 宅地建物取引業法 第34条・第34条の3・第35条・第37条・第46条(e-Gov法令検索)
- 民法 第99条・第101条・第108条(e-Gov法令検索)
上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。