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罰金と過料の違い ── 宅建業法はどこで線を引いているか

公開
2026年9月20日
法令・制度の確認
2026年9月20日 時点

案内所を開く、事務所を増やす、専任の宅地建物取引士が抜ける ―― 体制が動いたときに、何を落とすと何が起きるのかを確かめたくなります。宅地建物取引業法の罰則を開くと、罰金と過料が続けて並んでいます。ところが額はほぼ連続していて、どちらが重いのかは金額からは読み取れません。分かれているのは重さの目盛りではなく、系統のほうです。

罰金と過料は別の系統

罰金は刑罰です。刑法9条が刑の種類を定めています。

死刑、拘禁刑、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。

過料はこの列に入っていません。行政上の義務違反に対する秩序罰として、刑罰とは別に置かれているものです。手続も分かれます。罰金は刑事手続で科され、100万円以下のものは公判前に略式命令で科される場合があります(刑事訴訟法461条)。過料は非訟事件手続法の第五編により、地方裁判所が管轄します。裁判には理由を付し、あらかじめ検察官の意見と当事者の陳述を聴き、当事者と検察官は即時抗告ができます(119条・120条)。執行は検察官の命令で行います(121条)。

宅地建物取引業法の側から見ると、義務違反に対する制裁は監督処分・罰金・過料の3系統が並んでいます。監督処分(指示・業務停止・免許取消し、宅地建物取引士への指示・事務禁止)は第六章に、罰金は第八章の79条から83条の2までに、過料は同じ第八章の85条から86条までにあります。

額では並ばない

過料は3段に分かれています。

条額対象となる義務
85条30万円以下指定流通機構が監督命令(50条の11)に違反したとき
85条の220万円以下登録講習機関の財務諸表等の備置き・記載、閲覧の請求の拒否(17条の11)
86条10万円以下宅地建物取引士証の返納・提出(22条の2第6項・第7項)、重要事項の説明をするときの宅地建物取引士証の提示(35条4項)、協会の名称の使用制限(75条)

罰金のいちばん軽い段は83条の50万円以下なので、額だけを並べると二つの系統は地続きに見えます。ただし85条と85条の2は指定流通機構と登録講習機関に向けられた規定で、宅地建物取引業者と宅地建物取引士が直接負うのは86条の10万円以下の過料だけです。

どちらに振り分けられているか

罰金の側を条文の順に並べると、次のようになります。併科とあるのは、拘禁刑と罰金の両方を科しうるという意味です。

条法定刑主な対象
79条 3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又は併科 不正の手段による免許の取得、無免許事業(12条1項)、名義貸し(13条1項)、業務停止命令に違反しての営業
79条の2 2年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又は併科 重要な事項について故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為(47条1号)
80条 1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又は併科 不当に高額の報酬の要求(47条2号)
81条 6月以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又は併科 営業保証金の届出前の事業開始(25条5項)、誇大広告等の禁止(32条)、不当な履行遅延の禁止(44条)、手付についての信用の供与による契約の誘引(47条3号)
82条 100万円以下の罰金 免許申請書等への虚偽記載、無免許者の表示・広告(12条2項)、名義貸しによる表示・広告(13条2項)、専任の宅地建物取引士の欠員を補充しないこと(31条の3第3項)、報酬の限度額を超える受領(46条2項)
83条 50万円以下の罰金 変更の届出(9条)、37条書面の交付(37条)、報酬額の掲示(46条4項)、秘密を守る義務(45条)、従業者証明書の携帯(48条1項)、従業者名簿(48条3項)、帳簿の備付け(49条)、標識の掲示(50条1項)、報告・検査の拒否(72条)

二つの表を見比べると、振り分けの線が見えてきます。罰金が置かれているのは、免許制度の根幹に触れる行為(79条・82条)、取引の相手方の財産に直接向かう行為(79条の2・80条・81条)、そして業務の外形を保つ義務(83条)です。過料の側に残っているのは、証票の返納・提出と提示、名称の使用制限、それに制度の運営を担う機関への監督です。取引そのものと免許制度に向かう義務には刑罰が、証票・名称・制度運営の手続には秩序罰が置かれている、という並びになっています。

つまずく点

額の差ではなく、欠格事由に乗るかどうか

免許の基準は5条1項に、宅地建物取引士の登録の基準は18条1項にあります。どちらも、この法律の規定に違反したことにより罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者を欠格事由として挙げています(5条1項6号・18条1項7号。同じ号に暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定違反と、刑法の傷害・暴行・脅迫・背任等の罪も並びます)。拾われるのは罰金の刑で、過料はこの号に入りません。標識の掲示を欠いた罰金と、重要事項の説明のときに宅地建物取引士証を提示しなかった過料の差は、額では5倍ですが、免許と登録が5年止まるかどうかで切れています。なお拘禁刑以上の刑は別の号(5条1項5号・18条1項6号)にあり、罪種を問いません。

過料は法人に及ばない

84条が両罰規定を置いています。従業者等が業務に関して違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、79条・79条の2については法人に1億円以下の罰金刑を、80条から83条まで(83条1項3号を除く)については各本条の罰金刑を科す、という作りです。ここに85条から86条までは掲げられていません。過料は法人に及ばず、行為者個人に留まります。

「宅地建物取引士証の提示」は場面で分かれる

提示の義務は2箇所にあります。22条の4は取引の関係者から請求があったときの提示、35条4項は重要事項の説明をするときの提示です。86条が掲げているのは35条4項の側だけで、22条の4には罰則がありません。同じ「提示」でも場面によって結果が変わり、22条の4に違反した場合は68条の指示・事務禁止の側で見ることになります。

重要事項説明の本体には罰則がない

35条1項から3項までの説明義務そのものは、第八章のどこにも掲げられていません。掛かるのは監督処分で、65条2項2号が35条1項から3項までを業務停止の対象として掲げています。ところが同じ35条でも、4項の提示には10万円以下の過料が付いています。さらに、説明すべき事項について故意に事実を告げず又は不実のことを告げる行為は47条1号として79条の2に当たります。説明を欠いたことと、偽ったことと、証票を示さなかったことが、それぞれ別の系統に置かれています。

専任の宅地建物取引士の欠員は2週間

31条の3第3項は、既存の事務所等が設置の要件に抵触するに至ったときは、2週間以内に適合させるため必要な措置を執らなければならないとしています。これに違反すると82条2号の100万円以下の罰金に当たり、あわせて65条2項2号の業務停止の対象にもなります。少人数の体制では、退職や異動の直後にこの期間が走り出します。

守秘義務違反は告訴が要る

45条の秘密を守る義務に違反した場合は、83条1項3号の50万円以下の罰金です。ただし同条2項が次のように定めています。

前項第三号の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

この号は84条2号の括弧書きでも除かれていて、両罰規定の対象から外れています。罰金の段のなかでも、この一つだけ扱いが違います。

どこまでが手元に残るか

条文の所在を3系統ごとに並べ、根拠と確認日を添えた一覧として起こす工程は、手元から離しても形が崩れません。離せないのは、標識を掲げる・帳簿に記載する・宅地建物取引士証を提示するという行為そのものと、専任の宅地建物取引士をどう置くかの判断です。制裁が付いているのは、いずれも後者の側になります。

確かめられたこと・確かめていないこと

  • 確かめたこと ―― 宅地建物取引業法の第八章(79条から86条まで)、両罰規定の掲名範囲(84条)、免許と登録の基準の各号(5条1項・18条1項)、監督処分の掲名範囲(65条2項2号)は、確認日時点の現行条文を e-Gov 法令検索で取り出して確認しました。刑法9条、非訟事件手続法119条から121条まで、刑事訴訟法461条も同じ日に原典で確認しました。法定刑の表記は条文どおり「拘禁刑」としています(改正前の条文では「懲役」です)。
  • 確かめていないこと ―― 罰金と過料が実際に科された件数や事例には当たっていません。条文上どちらに置かれているかと、実際に適用されるかは別の話です。
  • 確かめていないこと ―― 監督処分は、65条・68条が別系統として置かれていることまでの確認にとどまります。処分の要件・量定や、国土交通省および各都道府県の処分基準には当たっていません。
  • 確かめていないこと ―― 「罰金」と「過料」の振り分けについて、立法時の考え方を示した一次資料には当たれていません。本文の整理は、条文にどの義務が掲げられているかを並べた結果です。
  • この記事は条文の配置を一般的に整理したもので、個別の事案についての判断ではありません。実際の取扱いは、依頼元の宅地建物取引士のご判断によります。

参照した一次情報

上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。