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長期の空き家等の貸借の媒介 ── 報酬の特例が使える物件、使えない物件

公開
2026年9月13日
法令・制度の確認
2026年9月13日 時点

遠方に住む所有者から、相続のあと誰も住んでいない戸建を貸したいと相談を受けることがあります。現地の状態を確かめるだけで何度か足を運ぶことになり、借賃の1か月分を基準にした報酬の上限では、手間に見合わない場面が出てきます。令和6年7月1日から、こうした物件の貸借の媒介について報酬の特例が設けられました。ただ、どの物件が「長期の空家等」に当たるのか、誰からどこまで受けられるのかは、告示と通達を並べて読まないと掴みにくい作りになっています。

どこに定めがあるか

宅地建物取引業法46条1項は、報酬の額を国土交通大臣が定めるとし、2項はその額を超えて報酬を受けることを禁じています。これを受けた報酬告示(昭和45年建設省告示第1552号)は、令和6年国土交通省告示第949号による改正で、第九に長期の空家等の貸借の媒介における特例を、第十に貸借の代理における特例を加えました。運用の考え方は、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」第46条第1項関係に置かれています。

比べる基準は、告示第四の原則です。貸借の媒介で依頼者の双方から受ける報酬の合計は、借賃の1月分の1.1倍(消費税等相当額を含む)以内とされています。居住の用に供する建物の賃貸借では、依頼を受けるに当たって承諾を得ている場合を除き、依頼者の一方から受けられるのは0.55倍以内です。特例は、この枠の外側へ条件付きで上限を広げるものです。

「長期の空家等」に当たる物件

告示第九は、括弧書きで定義を置いています。

長期の空家等(現に長期間にわたって居住の用、事業の用その他の用途に供されておらず、又は将来にわたり居住の用、事業の用その他の用途に供される見込みがない宅地又は建物をいう。以下同じ。)

定義に年数は書かれていません。二つの要件のどちらかに当たればよく、宅地も対象に入り、居住用の建物にも限られていません。通達は、判定の時点を宅地建物取引業者が貸主である依頼者から媒介の依頼を受ける時点と置いたうえで、次の例を挙げています。

区分通達が挙げる例
現に長期間使われていない 少なくとも1年を超えるような期間にわたり居住者が不在となっている戸建の空き家や分譲マンションの空き室
将来も使われる見込みがない 相続等により利用されなくなった直後の戸建の空き家や分譲マンションの空き室で、今後も所有者等による利用が見込まれないもの
当たらない 入居者の募集を行っている賃貸集合住宅の空き室(事業の用に供されているものと解される)

二つめの例が示すとおり、空いてからの期間が短くても、将来の利用の見込みがなければ該当しえます。反対に、長く埋まらない賃貸住宅の空室は、募集を続けていること自体が事業の用とされ、期間の長さにかかわらず外れます。

特例で受けられる報酬

告示第九の本文は次のとおりです。

長期の空家等(略)の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受ける報酬の額(当該媒介に係る消費税等相当額を含む。以下この規定において同じ。)の合計額については、宅地建物取引業者は、第四の規定にかかわらず、当該長期の空家等の借主である依頼者から受ける報酬の額が当該長期の空家等の借賃の一月分の一・一倍(居住の用に供する長期の空家等にあっては、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該借主である依頼者の承諾を得ている場合を除き、〇・五五倍)に相当する金額以内である場合に限り、当該媒介に要する費用を勘案して、第四の規定により算出した金額を超えて、当該長期の空家等の借賃の一月分の二・二倍に相当する金額を超えない範囲内で報酬を受けることができる。

通達とあわせて読むと、次の4点になります。

  1. 上限は、依頼者の双方から受ける報酬の合計で、借賃の1月分の2.2倍(消費税等相当額を含む)です。
  2. 借主から受ける額は、通常の上限(1.1倍、居住用で借主の承諾が無ければ0.55倍)以内でなければなりません。
  3. そのため、通常の上限を超えて受けられるのは、貸主である依頼者からに限られます。通達もそう明記しています。
  4. 媒介契約の締結に際しあらかじめ、上限の範囲内で報酬額を依頼者に説明し、合意する必要があります(通達)。

借主からの受け方によって、貸主から受けられる幅が変わります。組合せを借賃の月額に対する倍率で並べると、次のとおりです。

借主側の条件借主から受ける額貸主から受けられる額合計の上限
居住用・借主の承諾なしで、借主から0.55倍を受ける0.55倍1.65倍まで2.2倍
借主から報酬を受けないなし2.2倍まで2.2倍
借主から1.1倍を受ける(居住用は、依頼を受けるに当たって借主の承諾を得た場合)1.1倍1.1倍まで2.2倍

「当該媒介に要する費用を勘案して」について、通達は低廉な空家等の売買の特例の項で、費用には人件費等を含み、費用に相当する金額を上回る報酬を受けることを禁ずる趣旨ではない、と説明しています。貸借の代理にも第十に同じ枠組みの特例があり、売買には価格800万円以下の宅地建物を対象とする別の特例(第七・第八)があります。

つまずく点

「1年」は要件ではない

1年は通達の例示で、告示の要件ではありません。当てはめは依頼を受けた時点の使われ方によるので、年数だけで線を引くと、空いて間もないが該当する物件を見落とし、長く空いていても事業の用に当たる物件を取り込むことになります。依頼の時点で何を根拠に判断したか ―― 聴き取った利用の経緯や、現地の状態 ―― を残しておかないと、判断の経緯を後から示せません。

以前に賃貸していた物件

通達が除外の例に挙げるのは「入居者の募集を行っている賃貸集合住宅の空き室」です。以前に賃貸に出していた戸建が空いた場合や、募集をやめたまま置かれている空室がどちらに寄るかは、通達の例示だけでは決まりません。事業の用に供されているかどうかの判断は、事案ごとに依頼元の宅地建物取引士に残ります。

借主から通常の上限を超えて受けると、特例の前提を欠く

告示第九は「場合に限り」と書いています。借主から通常の上限を超えて受けると特例の前提を欠き、第四の原則の枠で見ることになります。居住用の建物で借主から0.55倍を超えて受けるには、借主の承諾を依頼を受けるに当たって得ておく必要があり、通達は依頼後に得た承諾はこの承諾に当たらないとしています。

合意は媒介契約の前に済ませる

通達は、媒介契約の締結に際しあらかじめ報酬額を説明し、合意する必要があることに「特に留意すること」としています。一方で、宅地建物取引業法34条の2の媒介契約書面の交付義務は売買又は交換の媒介が対象で、貸借の媒介は条文の対象に入っていません。合意の時期と内容を何で残すかは、媒介を受ける業者の側の段取りに委ねられています。

上乗せ・実費・関連業務の報酬を混ぜない

長期の空家等をめぐって貸主から受け取る金銭には、性質の違う三つが並びます。

種類根拠条件
媒介報酬の上乗せ 告示第九 上限の範囲内で、媒介契約の締結に際しあらかじめ説明し、合意する
特別の依頼による実費 通達 第46条第1項関係1(10)② 遠隔地における現地調査や空家の特別な調査等に要する実費で、その負担について事前に依頼者の承諾があるもの
媒介以外の関連業務の報酬 通達 第34条の2関係11・第46条第1項関係6 空き家の管理や助言などについて、媒介契約とは別に、業務内容・報酬額等を明らかにした書面等で契約する

告示第十一は、告示の規定によるほかは報酬を受けることができないと定めています。区分が曖昧なまま受け取ると、どの枠で受けた金銭なのかを説明できなくなります。なお、消費税の免税事業者は、告示の額に110分の100を乗じるなど別の計算になります(告示第十一②)。

どこまでが手元に残るか

特例が使えるかの判断と、報酬額の説明・合意は、媒介を受ける業者と依頼者の間に残ります。外に出せるのは、依頼の時点で物件がどう使われていないかを現地で日付とともに記録し、聴き取った経緯と突き合わせて、判断の材料として揃える工程までです。

確かめられたこと・確かめていないこと

  • 確かめたこと ── 報酬告示は国土交通省が掲載する令和6年7月1日以降版の原典で、解釈・運用の考え方は令和8年4月1日施行版の原典で確認しました。宅地建物取引業法の条文は、確認日時点の現行条文を e-Gov 法令検索で確認しました。
  • 確かめていないこと ── 「長期間」について、通達の例示を超える線引きを示した一次情報(監督処分の事例や裁判例)には当たれていません。
  • 確かめていないこと ── 「当該媒介に要する費用を勘案して」の説明は、通達の本文では低廉な空家等の特例の項に置かれており、長期の空家等の項には同じ説明がありません。国土交通省の改正概要は、特例全体の考え方として掲げています。
  • 確かめていないこと ── 都道府県や業界団体が示す運用・書式には当たっていません。
  • この記事は告示と通達の関係を一般的に整理したもので、個別の事案についての判断ではありません。実際の取扱いは、依頼元の宅地建物取引士のご判断によります。

参照した一次情報

上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。