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報酬の不払いは「不当な履行遅延」か ── 宅建業法44条が守るもの

公開
2026年9月22日
更新
2026年9月27日
法令・制度の確認
2026年9月27日 時点

宅建業者が自ら売主となる物件で、別の宅建業者が媒介を頼まれ、買主を見つけて売買契約が成立したとします。ところが契約の後、売主の業者が媒介報酬を払おうとしません。このとき「不当な履行遅延に当たるのではないか」と考えたくなりますが、宅地建物取引業法44条はこの場面を対象にしていません。理由は、44条が遅延を禁じる対象を三つに絞って並べていることにあります。

44条が並べている三つ

不当な履行遅延の禁止は、44条の一文だけで定められています。

宅地建物取引業者は、その業務に関してなすべき宅地若しくは建物の登記若しくは引渡し又は取引に係る対価の支払を不当に遅延する行為をしてはならない。

遅延が問われるのは、宅地・建物の登記、宅地・建物の引渡し、取引に係る対価の支払の三つです。「その業務に関してなすべき」債務一般を対象にしているわけではありません。宅建業者が業務の中で負う支払や手続は他にもありますが、44条の文言が拾っているのはこの三つに限られます。

遅れたかどうかは、何と比べるか

44条は「遅延」とだけ書き、いつまでに行うべきかは定めていません。比べる相手になるのは、契約で決めた時期です。37条1項は、売買・交換の契約が成立したときに交付する書面の記載事項として、3号で代金の支払の時期、4号で引渡しの時期、5号で移転登記の申請の時期を挙げています。44条の三つは、どれも37条書面に時期が書かれる事項です。

その時期に間に合うかどうかは、契約の前に見えていることがあります。登記や引渡しを止めうる事実のうち、記録で確かめられるものと、売主の側に残るものを並べると次のようになります。

事実止めうるものどこで確かめるか
抵当権・差押えなどの登記 移転登記 登記の有無と内容は、登記事項証明書で確かめられます(35条1項1号の事項)。抹消の段取り(債権者との調整、残っている債務の額)は売主と債権者の側にあり、要確認です。
登記名義人が売主本人か 移転登記 名義は登記事項証明書で確かめられます。名義人が亡くなっていて相続の登記が済んでいなければ、相続人が誰で、いつ登記できるかは売主の側の事情で、要確認です。
物件を使っている人がいるか 引渡し 現地で観察できるのは、使われている様子までです。使っている人の権原と明け渡す見込みは記録に出ず、確認不能として残ることがあります。
農地法などの許可が要る取引か 移転登記・引渡し 許可が要る形かどうかは、登記の地目・現況と条文から確かめられます。許可が出る時期は審査する行政の側にあり、確認不能です。

遅れが「不当」に当たるかどうかは個別の事情による評価で、この記事では扱いません。調査の側でできるのは、37条書面の時期を決める前に、その時期を動かしうる事実がどこまで記録で確かめられたかを分けて渡すことです。納品物の見本のチェックリストで、確認済・要確認・確認不能を分けて残しているのはそのためです。

媒介報酬は「取引に係る対価」に入らない

残る論点は、媒介報酬が三つ目の「取引に係る対価」に入るかどうかです。条文の並びからは、入らないと読むのが自然です。

まず、44条は登記・引渡しと対価の支払を一つの文に並べています。登記と引渡しは売買や交換の目的物である宅地・建物についての債務ですから、それと並ぶ対価も、同じ取引の目的物に対する代金や交換差金を指していると読めます。

次に、宅地建物取引業法は媒介報酬を「対価」と呼ばず、46条1項で別に扱っています。

宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。

媒介報酬は、宅地・建物そのものの代金ではなく、媒介という業務に対して支払われるものです。法律の中でも「報酬」という別の語が当てられています。三つを並べると、次のようになります。

支払・手続何についての債務か44条の列挙
登記取引の目的物である宅地・建物入る
引渡し取引の目的物である宅地・建物入る
売買代金・交換差金取引の目的物である宅地・建物の対価入る(取引に係る対価)
媒介報酬媒介という業務(46条)入らない

自ら売主となる業者が44条で問われうるのは、買主への登記や引渡しを不当に遅らせた場合です。媒介を頼んだ業者への報酬の支払は、その列の外に置かれています。

相手が宅建業者だから外れるのではない

この場面では、報酬を払わない側も受け取る側も宅建業者です。そのため「業者間の取引だから44条が適用されない」と説明されることがありますが、条文の上ではそうなっていません。

第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。

78条2項が業者間の取引で外しているのは、33条の2と37条の2から43条までです。44条はこの範囲に入っていません。売主の業者が買主の業者への引渡しを不当に遅らせれば、業者間であっても44条の問題になりえます。報酬の不払いが44条に当たらないのは、相手が業者だからではなく、報酬が44条の列挙に入っていないからです。

つまずく点

44条に当たらなくても、支払義務は残る

44条の外にあるということは、業法のこの禁止規定の対象にならない、というだけです。媒介契約で報酬の支払を約束していれば、その義務は契約に基づいて残ります。報酬の請求は、業法の規定ではなく、当事者間の媒介契約の問題として扱われることになります。

請求の足場は媒介契約書にある

売買の媒介契約を結んだ宅建業者は、34条の2第1項により書面を作って依頼者に交付します。その記載事項の7号が「報酬に関する事項」です。報酬の額について、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、告示の限度額を当然に請求できるものではなく、業務の内容等を考慮して依頼者と協議して決める事項だとしています。額と支払時期が書面にどう書かれているかが、そのまま後の請求の拠り所になります。

罰則付きの条文であること

44条に違反した者には、81条1号により6月以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はその併科が定められています。刑罰の付いた条文ですから、列挙された三つの外へ文言を広げて読む前提には立ちにくい、という点も押さえておくとよいでしょう。

業法の外に残るもの

報酬の不払いが44条に当たらないことは、払わなくてよいことを意味しません。支払義務は媒介契約に基づいて残り、その請求を支えるのは業法の禁止規定ではなく、媒介契約書に書いた報酬の額と支払時期です。報酬の条項は、契約を結ぶ時点で読み返しておく価値があります。

確かめられたこと・確かめていないこと

  • 確かめたこと ── 上に引いた宅地建物取引業法の条文は、この記事の確認日時点の現行条文を e-Gov 法令検索で確認しました。2026-09-27 に、35条1項1号と37条1項3号〜5号の文言を追加で確認しています。「解釈・運用の考え方」の報酬額の記載は、国土交通省の原典で確認しました。
  • 確かめていないこと ── 「解釈・運用の考え方」には44条についての項が無く、「媒介報酬の不払いは44条に当たらない」と明示した国の文書は、探した範囲では見つけられませんでした。この記事の結論は、44条・46条・78条2項の文言からの帰結として書いています。
  • 確かめていないこと ── 報酬の不払いが、44条以外の規定(信義誠実を定める31条1項や、監督処分の規定など)で評価された例は確認していません。
  • この記事は一般的な条文の関係を整理したもので、個別の事案についての判断ではありません。実際の取扱いは、媒介契約書の記載に即して、依頼元の宅地建物取引士および専門の士業のご判断によります。

参照した一次情報

上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。