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賃借人は集会で意見を述べられる ── 議決権が区分所有者に残る理由

公開
2026年9月12日
法令・制度の確認
2026年9月12日 時点

区分所有建物の貸借を媒介していると、借主から聞かれることがあります。管理組合の集会に出られるのか、ペットや楽器の可否は誰が決めるのか。区分所有法が用意しているのは、出席して意見を述べる道だけです。議決権はそこに含まれていません。この段差がどこから来ているのかを、条文で追います。

「占有者」とは誰か ── 承諾の有無で分かれます

条文は区分所有法44条1項です。

区分所有者の承諾を得て専有部分を占有する者は、会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合には、集会に出席して意見を述べることができる。

主語は「区分所有者の承諾を得て専有部分を占有する者」です。賃料を払っているかどうかは要件に入っていません。典型は賃借人ですが、使用貸借で借りている親族も、区分所有者の承諾を得た転借人も、文言の上では同じ位置に立ちます。分かれ目は区分所有者の承諾です。

一方、この法律が「占有者」と呼ぶ範囲は、これより広く取られています。6条3項は、共同の利益に反する行為の禁止を「区分所有者以外の専有部分の占有者」に準用し、この者を占有者と呼ぶと定めています。ここに承諾は出てきません。承諾のない占有そのものの整理は、不法な占有とは何かで別に扱いました。

立場集会への出席議決権規約・決議の拘束
区分所有者招集の通知が届く(35条1項)あり(38条)全面的に及ぶ
承諾を得て占有する者利害関係があるときに出席して意見を述べられる(44条1項)なし使用方法について及ぶ(46条2項)
承諾のない占有者44条1項の要件を満たさないなし条文は「占有者」とだけ書いている(6条3項・46条2項)

議決権は、団体の構成員と持分に結びついています

集会は、3条の団体が意思を決める場です。3条は「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し」と定めていて、構成員として挙げられているのは区分所有者だけです。占有者はこの団体の外にいます。

議決権の大きさも、同じところから出ています。

各区分所有者の議決権は、規約に別段の定めがない限り、第十四条に定める割合による。

14条1項は、共用部分の各共有者の持分を、その有する専有部分の床面積の割合によるとしています。議決権は共用部分の持分から出ていて、その持分は専有部分の所有から出ています。占有者は専有部分を所有していないので、割り当てる基になる数字がありません。規約で別段の定めを置くことはできますが、38条が主体として書いているのは、そこでも区分所有者です。

手続の側も同じ向きに揃っています。招集の通知は各区分所有者に発します(35条1項)。専有部分が数人の共有であれば、議決権を行使する者を1人定めます(40条)。議事は、出席した区分所有者及びその議決権の各過半数で決します(39条1項)。占有者が会場にいても、この数え方の中には入りません。

では、なぜ意見だけは述べられるのか。手がかりは46条2項にあります。

占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。

規約と決議は、建物の使用方法については占有者をそのまま拘束します。決議に加われないのに、決議の結果には従う立場です。44条1項が「会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合には」と限定を付けているのも、同じ向きに読めます。効力が及ぶ範囲に対応して、意見を述べる窓口だけが開いている、という構造です。ただし、利害関係の中身を定めた条文は見当たりません。

令和8年4月1日施行の改正で変わったところ

区分所有法は、令和7年法律第47号により改正され、区分所有法にかかる部分は令和8年4月1日から施行されています。占有者の位置に関わる変更が3つあります。

掲示される中身が増えました

占有者に招集の通知は届きません。代わりに44条2項が、集会を招集する者に対し、招集の通知を発した後、遅滞なく建物内の見やすい場所に掲示することを求めています。改正前の掲示事項は、集会の日時・場所・会議の目的たる事項の3つでした。改正後は、これに議案の要領が加わっています。

背景には35条1項の変更があります。改正前は、規約の変更のように重い決議事項に限って、議案の要領を通知していました。改正後は、招集の通知そのものを「会議の目的たる事項及び議案の要領を示して」発するものとしています。掲示の側も、これに合わせた形です。占有者にとっては、この掲示が唯一の判断材料ですから、何が提案されているのかまで読める状態になりました。

多数決の数え方が出席者基準になりました

改正前の39条1項は「区分所有者及び議決権の各過半数で決する」でした。改正後は「出席した区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及びその議決権の各過半数」です。数える対象が出席者に変わりました。占有者が44条1項により出席していても、ここでいう出席した区分所有者には当たりません。

区分所有者でも議決権を持たない場合が生じます

38条の2が新設されました。区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所の裁判により、その区分所有者は集会における議決権を有しないものとして扱われます。専有部分を所有していれば必ず議決権が付いてくる、という形ではなくなりました。

つまずく点

出席するのに、あらかじめ通知が要ることがあります

国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)は、45条2項で44条1項と同じ内容を置いたうえで、総会に出席して意見を述べようとする者は、あらかじめ理事長にその旨を通知しなければならない、としています。区分所有法にこの手続はありません。規約の側で加えられたものです。当日そのまま会場へ行けばよい、という運用になっていない管理組合があります。標準管理規約は令和7年に改正されているので、版と条番号を実際の規約で確かめることになります。

議決権の代理行使でも埋まりません

議決権は書面又は代理人によっても行使できます(39条2項)。それなら区分所有者が借主を代理人に立てればよい、と考えたくなります。ところが標準管理規約46条5項は、代理人になれる者を4つに限っています。組合員の配偶者又は一親等の親族、その住戸に同居する親族、他の組合員、国内管理人です。借主はこのどれにも当たりません。この限定を置いている管理組合では、代理という形をとっても議決権は動きません。

重要事項説明で説明するのは「規約の定め」です

建物の貸借では、宅地建物取引業法35条1項6号を受けた施行規則16条の2のうち、第3号と第8号を説明します。第3号が専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め、第8号が一棟の建物及びその敷地の管理の委託先です。ここで名指しされているのは規約の定めです。一方、46条2項が借主に及ぼすのは、規約と集会の決議の両方です。借主を拘束する範囲と、書面に書く範囲は、同じ形をしていません。使用細則や決議で加えられた制限は、規約の条文だけを読んでも出てこないので、規約・使用細則・議事録は別々に取り寄せることになります。

占有者が議決される側に回ることがあります

占有者が共同の利益に反する行為をした場合、区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、その占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除と、専有部分の引渡しを請求することができます(60条1項)。賃貸借契約が、契約の当事者ではない側の訴えによって解かれうる、という条文です。この決議をするには、あらかじめ弁明する機会を与えなければなりません(60条2項による58条3項の準用)。弁明の機会は、議決権とは別のものです。自分の契約が議題になっている場面でも、決議に加わる立場は占有者にありません。

規約を読む工程と、説明する工程

規約・使用細則・議事録を取り寄せ、借主に及ぶ制限がどこに書かれているかを拾い、その規約がいつの版で、現行の条文とどこがずれているかまで一覧にする。ここは説明と記名の手前で切り出せます。個別の事項が44条1項の利害関係に当たるかどうかの評価も、35条書面にどこまで書くかの判断も、依頼元の宅地建物取引士に残ります。

確かめられたこと・確かめていないこと

  • 確かめたこと ── 引いた区分所有法・宅地建物取引業法・同法施行規則の条文は、この記事の確認日時点の現行条文を e-Gov 法令検索で確認しました。区分所有法については、令和8年4月1日施行の版が現に施行されている版であることを、改正履歴で確認しています。改正前の条文も同じ場所で読み比べました。
  • 確かめたこと ── 標準管理規約の条番号と条文は、国土交通省が公開している令和7年改正版の本文で確認しました。個々の管理組合の規約がこれと同じとは限りません。
  • 確かめていないこと ── 「利害関係を有する場合」の範囲を定めた条文や国の文書は、探した範囲では見つけられませんでした。この記事でも線引きをしていません。
  • 確かめていないこと ── 意見を述べる機会のないまま決議がされた場合の効力を扱った裁判例は確認していません。承諾のない占有者に46条2項がどう適用されるかも、裁判例では確かめていません。
  • 確かめていないこと ── 議決権を占有者に与えなかった理由そのものは、一次情報を取れていません。ここに書いたのは、条文がそう組まれているという事実までです。
  • この記事は一般的な条文の関係を整理したもので、個別の事案についての判断ではありません。実際の取扱いは、規約と契約書に即して、依頼元の宅地建物取引士および専門の士業のご判断によります。

参照した一次情報

上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。