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不法な占有とは何か ── よくある5つの場面と、明渡しまでの順序

公開
2026年8月31日
更新
2026年9月22日
法令・制度の確認
2026年9月22日 時点

空き家や古い賃貸物件の調査で、現地に人の気配が残っていることがあります。表札が出ている、電気メーターが動いている、駐車場に車がある。ところが登記事項証明書にも、預かった書類にも、その人は出てきません。

ここで「不法占有かもしれない」と考えるとき、二つの別々の判断が重なっています。占有という事実があるかどうかと、その占有に法律上の根拠があるかどうかです。この二つは同じ資料からは出てきません。まず、その構造を見ます。

占有は、権原とは別の層にあります

民法180条は、占有権の取得をこう定めています。

占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。

要件は「自己のためにする意思」と「所持」の二つだけです。所有権や賃借権といった、占有を正当化する権利 ── 権原 ── は要件に入っていません。つまり権原のない占有者も、占有権そのものは持っています。「不法な占有」という言い方は、占有が無いという意味ではなく、占有はあるが、それを支える権原が無い、という意味になります。

そして権原の有無は、外からは見えません。民法188条は次のように定めています。

占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。

現地で見えるのは占有の外形だけで、権原の有無は書面と経緯をたどらないと出てきません。たどれないうちは、条文上の推定は占有者の側に立っています。現地調査で確定できるのは占有の事実までで、それが不法かどうかは、その場では決まりません。

よくある5つの場面

実務で出てくる形を、占有がどういう状態にあるかと、根拠になる条文で並べます。

場面占有の状態主な条文
賃貸借が終了したのに退去しない終了した時点で権原が消えています。以後の使用の対価は、賃料ではなく損害賠償や不当利得として扱われます。民法703条・709条
契約書に出てこない人が住んでいる承諾のない転貸は禁じられています。賃貸人は契約を解除できる立場に立ちます。民法612条
競売で買い受けた建物に前の使用者が残っている不法占有とは限りません。抵当建物使用者に当たる場合、一定期間は引き渡す必要がありません。民法395条1項、民事執行法83条
相続で放置された建物に人が住み続けている相続関係が固まるまで権原の有無が決まりません。放棄した人にも、放棄の時に現に占有していれば保存義務が残ります。民法940条1項
隣地の物置や塀が敷地にはみ出している占有が続くほど取得時効の要件が積み上がります。所有の意思・平穏・公然は推定されます。民法162条・186条1項

三つ目を並べたのは、退去しない状態がそのまま不法占有になるわけではないからです。民法395条1項は、抵当権者に対抗することができない賃貸借で建物を使っている者について、こう定めています。

その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。

この六箇月の間の占有には、法律上の根拠があります。買受人が申し立てる引渡命令にも同じ線が引かれていて、民事執行法83条1項ただし書は、買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、引渡命令を出せないとしています。「出ていかない」という外形は同じでも、条文の側は分かれています。

「引き渡すことを要しない」は、無償で使い続けてよいという意味ではありません。民法395条2項は、買受けの時より後の使用の対価について、買受人が相当の期間を定めて一箇月分以上の支払を催告し、その期間内に支払がなければ、1項を適用しないとしています。猶予は、対価を払い続けることと引き換えに置かれています。

この場面に当たるかどうかは、日付の先後で決まります。判定に要る日付を並べると、登記で確かめられるものと、登記の外に残るものに分かれます。

日付何を分けるかどこで確かめるか
抵当権設定の登記賃貸借が抵当権者に対抗できるか。建物の賃貸借は引渡しで対抗力を持つため(借地借家法31条)、引渡しとの先後を見ます。乙区。登記で確かめられます。
賃借人が引渡しを受けた日同上。登記には出ません。契約書や入居時の記録が無ければ、要確認のまま残ります。
競売手続の開始395条1項1号の「競売手続の開始前から」使っている者に当たるか。甲区の差押えの登記に出ます。
使用を始めた日同上。占有者の申告か、残っている記録によります。現地では確認不能で、書けるのは気配に気づいた日付までです。
買受けの時六箇月の起算点。買受人は代金を納付した時に不動産を取得します(民事執行法79条)。甲区の、売却を原因とする所有権移転の登記に出ます。

登記から拾える三つの日付に対して、残る二つは登記の外にあります。この二つが埋まらないうちは、猶予の対象かどうかも書けません。納品物の見本のチェックリストで、確かめた事項と確かめられなかった事項を分けて残しているのは、こうした空欄を空欄のまま渡すためです。

明渡しまでの順序

権原が無いと判断できた場合でも、占有を解く方法は法律の手続きに限られます。順序はこうなります。

  1. 占有者を特定します。誰が、いつから、どの範囲を使っているか。
  2. 占有権原の有無を確かめます。契約書、解除の通知、相続関係、支払の記録。
  3. 明渡しを催告します。ここまでは当事者の間のやり取りです。
  4. 占有移転禁止の仮処分を申し立てます。
  5. 明渡しの訴訟を起こし、判決などの債務名義を得ます。
  6. 強制執行を申し立てます。

4を飛ばせないのは、判決が出るまでの間に占有者が入れ替わると、その判決で執行できなくなるためです。民事保全法62条1項は、仮処分の執行後にその事実を知って占有した者や、知らないまま債務者の占有を承継した者に対しても、本案の債務名義で明渡しの強制執行ができるとしています。同法25条の2は、執行前に債務者を特定することが困難な特別の事情があるときには、債務者を特定しないままこの仮処分を発することができるとしています。占有者が誰か分からない状態は、制度の側に織り込まれています。

6の強制執行は、民事執行法168条1項が方法まで定めています。

不動産等(略)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。

占有を解くのは執行官です。同条2項は、占有者を特定する必要があるときに、その場にいる者へ質問し、文書の提示を求める権限も執行官に置いています。誰が占有しているかを確定させる場面が、手続きの入口だけでなく、いちばん最後にも用意されているということです。

力で出すと、立場が入れ替わります

手続きを踏まずに鍵を替える、荷物を運び出すという対応が問題になるのは、占有権が権原と切り離されているからです。民法200条1項は、占有を奪われた者に占有回収の訴えを認めています。ここでも権原は要件になっていないので、権原のない占有者でも、この訴えを起こせます。

そのうえで、民法202条2項があります。

占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。

この訴えの中では、「自分が所有者だ」という理由を持ち出せません。所有権に基づく請求は別に立てることになり(同条1項)、その間、占有は相手の側に戻ります。占有回収の訴えは占有を奪われた時から一年以内に提起するものとされていて(201条3項)、その間は、力で片付けたはずの状態が巻き戻る余地が残ります。

つまずきやすいところ

つまずき方何が起きるか
占有者が入れ替わる現地で特定した人が、手続きの途中で別の人に替わります。仮処分を飛ばすと、得た債務名義が空を打ちます。
権原が書面に出ない口頭の使用貸借、相続人の間の黙認、支払の実態。書面が無い側の事情は、現地でも登記でも出てきません。
断定が早すぎる188条の推定がある以上、外形だけで「不法占有」と評価すると、その評価そのものが誤りになることがあります。調査の段階で書けるのは、事実の記載までです。
時間が相手の要件になる越境や無断使用を放置した年数は、162条の取得時効の側に積み上がります。186条1項が所有の意思・平穏・公然を推定するため、放置した側が争点を抱えます。
告げないことが別の問題になる宅地建物取引業法47条1号は、勧誘をするに際して、判断に重要な影響を及ぼす事項について故意に事実を告げない行為を禁じています。占有の状態が登記に出ないことは、説明しなくてよい理由にはなりません(法令に基づく制限の調べ方でも同じ条文に触れています)。

五つに共通しているのは、時間が経つほど選べる手が減ることです。占有者の入れ替わりも、時効の進行も、放置した期間がそのまま相手方の材料になります。現地で気配に気づいた日付を残しておくことに、それだけで意味があります。

この工程のうち、現地で誰がいつからどう使っているかを日付とともに記録し、預かった書面と突き合わせて、確かめられていない点を一覧にするところまでは、手元から離しても形が崩れません。離せないのは二つあります。その状態を不法と評価して説明に載せるかどうかの判断は宅地建物取引士に残り、明渡しの交渉と手続きは弁護士の領域に入ります。外に出せるのは、事実の側だけです。

確かめられたこと・確かめていないこと

確かめられたのは条文です。占有権の要件に権原が入っていないこと(180条)、占有者の権利が適法と推定されること(188条)、占有の訴えで本権の理由を使えないこと(202条2項)、抵当建物使用者の引渡しが六箇月猶予され、対価の催告に応じなければ猶予が外れること(395条1項・2項)、買受人が代金納付の時に不動産を取得すること(民事執行法79条)、明渡しの強制執行が執行官の手で行われること(民事執行法168条1項)、占有移転禁止の仮処分を債務者不特定で発せられること(民事保全法25条の2)。いずれもe-Gov法令検索の現行条文で読みました。

確かめていないことも書いておきます。この記事は条文の組み立てだけを追っていて、判例がその先をどう埋めているかには触れていません。承諾のない転貸で転借人と賃貸人の関係がどうなるか、催告にどの程度の期間を置くかは、条文には書かれていません。差押えや売却による登記に載る日付が、開始決定や代金納付の日とどう対応するかも、この記事では一次情報に当たれていません。実際の事案でどの手を選ぶかは、記録を持ち寄ったうえで弁護士に相談する範囲です。条文は改正で動きますので、冒頭の確認日より後については原文を見てください。

参照した一次情報

上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。