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農地を親から子へ贈与するとき ── 許可が要る場面と、要らない場面

公開
2026年9月11日
更新
2026年9月25日
法令・制度の確認
2026年9月25日 時点

地目が田や畑の土地を含む案件で、登記事項証明書の権利部に「贈与」を原因とする移転が入っていることがあります。当事者は親と子、動いているのは持っていた農地の全部。この形を見て、親子の間で全部をまとめて渡したのだから農地法の許可は要らない、と読むことがあります。

結論から書くと、許可が要ります。しかも許可を受けないでした行為は効力を生じないので、所有権は動いていないことになります。なぜそうなるのかは、3条1項の本文が何を要件にしているかを読むと見えてきます。

本文が要件にしていないもの

農地法3条1項の本文は、次のように定めています。

農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。

並んでいるのは二つだけです。対象(農地・採草放牧地)と、動く権利の種類(所有権、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権など)。当事者が誰と誰かも、対象がその人の持つ農地の全部かどうかも、要件に入っていません。親子であることも、一括であることも、この文には出てきません。

続くただし書は、許可の要らない場合を1号から16号まで並べています。国や都道府県が取得する場合、土地収用法などによって収用される場合、遺産の分割による場合。並んでいるのは、そうした個別の場面です。親族間の贈与を外す号も、面積や割合で外す号もありません。

要否を分けているのは、権利が動く原因

本文は「移転し」「設定し」と書いています。これは当事者の行為を指しているので、相続のように人の死亡によって当然に権利が移る場合は、ここに当たりません。許可が外れるのは、親子だからでも全部だからでもなく、権利が動いた原因がこの文の外にあるからです。

その作りは3条の3に表れています。

農地又は採草放牧地について第三条第一項本文に掲げる権利を取得した者は、同項の許可を受けてこれらの権利を取得した場合、同項各号(第十二号及び第十六号を除く。)のいずれかに該当する場合その他農林水産省令で定める場合を除き、遅滞なく、農林水産省令で定めるところにより、その農地又は採草放牧地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない。

許可を受けて取得した場合、届出は要りません。ただし書の各号に当たる場合も要りません。ところが12号と16号だけは、この除外から外されています。12号は遺産の分割など、16号は農林水産省令で定める場合で、施行規則15条5号が包括遺贈と相続人に対する特定遺贈を挙げています。承継で動いた分は、許可が外れても届出が残る形です。

原因ごとに並べると、こうなります。

権利が動く原因3条1項の許可3条の3の届出
売買・交換・生前の贈与要る(1項本文)要らない
相続要らない要る
遺産の分割要らない(1項12号)要る
包括遺贈/相続人に対する特定遺贈要らない(1項16号・規則15条5号)要る
相続人以外への特定遺贈要る(1項本文)要らない

最後の行は、規則15条5号が「相続人に対する特定遺贈」と相手を限っていることの裏返しです。同じ遺贈でも、受ける人が相続人かどうかで入口が変わります。表の縦の並びが示しているのは一つで、要否を決めているのは当事者の関係でも対象の範囲でもなく、権利が動く原因だということです。

「全部」と「一人」は、どこから来た言葉か

親子の間で農地の全部を一括して、という言い回しには出所があります。租税特別措置法70条の4です。同条1項は、贈与税の納税を猶予する場面をこう限っています。

農業を営む個人で政令で定める者(中略)が、その農業の用に供している農地(中略)の全部及び当該用に供している採草放牧地(中略)のうち政令で定める部分(中略)を当該贈与者の推定相続人で政令で定める者のうちの一人の者に贈与した場合(中略)には、(中略)その納税を猶予する。

農地の全部であること、渡す相手が推定相続人のうちの一人であること。実務で生前一括贈与と呼ばれる制度の要件が、この一文に入っています。国税庁の案内も「農地の全部ならびに採草放牧地および準農地の一定部分をその農業を引き継ぐ推定相続人の1人に贈与した場合」と説明しています。

ただし、これは贈与税の納税を猶予する要件であって、農地法の許可を外す規定ではありません。置かれているのは租税特別措置法で、農地法3条1項のただし書には入っていません。自治体の案内も、この制度を使う場合の手順として、農業委員会への3条許可の申請を挙げています。「全部」と「一人」という言葉が両方の話に出てくるため、どちらの制度の要件だったのかが入れ替わりやすい箇所です。

猶予を受けた農地を、後から売る・貸すとき

納税猶予を受けた農地は、受け取った子が後から売ったり貸したりすると、猶予の期限が来ることがあります。70条の4第1項1号は、猶予を受けた農地等の譲渡・贈与・転用や、賃借権・使用貸借による権利の設定などを「譲渡等」とまとめています。収用などの例外を除き、その面積が猶予を受けている土地の面積の百分の二十を超えると、その日から2月を経過する日が猶予の期限になります。百分の二十以下でも、4項により、譲渡等をした農地等の価額に対応する部分の税額は同じく2月を経過する日が期限です。

猶予を受けるには、申告期限までに猶予税額に相当する担保を提供しなければなりません(70条の4第1項)。担保に土地を出したときは、国税通則法施行令16条3項により、書類の提出を受けた税務署長などが抵当権の設定の登記を嘱託します。登記の側に手がかりが出るのはこの経路だけです。担保に別の財産や保証人を出していれば、対象の農地の登記には何も出ません。

売買や貸借の話が来た農地について、どこまで記録で確かめられるかを並べると、次のようになります。

事実何を分けるかどこで確かめるか
移転の原因が贈与で、当事者が親と子か 生前一括贈与の形に当たり得るか 原因・日付・当事者は登記事項証明書の権利部で確かめられます。親子であることは登記に出ないので、戸籍か当事者の申告によるまで要確認です。
その贈与に3条1項の許可があったか 移転が効力を生じているか(3条6項) 許可書そのものは登記事項証明書に載りません。写しが売主の手元から出てくるか、農業委員会に当たるまで要確認です。
納税猶予を受けているか 今回の売買・貸借で猶予の期限が来る形か 対象の農地を担保に出していれば、国の抵当権の登記が手がかりになります。登記が無くても猶予が無いとは言えず、売主に確かめるまで要確認です。
今回動かす面積が、猶予を受けている土地の百分の二十を超えるか 全額の期限か、対応する部分の期限か(1項1号・4項) 猶予を受けている土地の範囲と、それまでの譲渡等は申告の内容で、登記には出ません。売主の手元の申告書の控えによります。出てこなければ確認不能です。
猶予されている税額 売主が取引で負う納付の大きさ 税務署と売主の側にある情報で、記録からは確認不能です。売主本人に確かめてもらう事項として残ります。

贈与の原因と日付、国の抵当権の有無は記録で確かめて書けますが、猶予を受けているか、どの範囲か、いくらかは売主と税務署の側にあります。納品物の見本のチェックリストで、確かめた事項と確かめられなかった事項を分けて残しているのは、こうした空欄を埋めたように見せず、空欄のまま渡すためです。

つまずく点

許可を欠いた移転は、効力を生じません。3条6項は「第一項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない。」と定めています。過去に贈与を原因とする移転が入っている農地を扱うときは、その移転が許可を経たものかどうかが、いま誰が所有者かという問いに直結します。手がかりの一つは登記の側にあります。不動産登記令7条1項5号ハが、登記原因について第三者の許可を要するときは、その許可を証する情報を添付情報として求めているためです。

親族間でも、許可の基準は緩みません。3条2項は、許可をすることができない場合を並べています。1号は、取得後に農地および採草放牧地の全てを効率的に利用して耕作または養畜の事業を行うと認められない場合。4号は、必要な農作業に常時従事すると認められない場合です。ここにも親族間の例外はありません。受け手が農業から離れているなら、許可が下りるかどうかは要否とは別に確かめる箇所になります。

目的が転用なら、入口の条文が変わります。3条1項のただし書は「第五条第一項本文に規定する場合」を除いています。農地を農地以外のものにするために権利を動かす場合は、3条ではなく5条の許可です。地目、現況、そして動かす目的の三つが揃わないと、どちらの入口かは決まりません。

重要事項説明では、契約の別で扱いが変わります。宅地建物取引業法35条1項2号を受けた施行令3条1項は、26号に農地法3条1項・4条1項・5条1項を挙げています。宅地の貸借について1項の一部を外す同条2項を見ても、26号はそこに入っていません。建物の貸借を定める3項は三つの法律だけなので、こちらには出てきません。

掛かる罰則も、許可と届出では別です。3条1項に違反した者は64条1号により3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金、3条の3の届出をしなかった者は69条により10万円以下の過料です。届出のほうは過料までで止まるので、落ちたことに気づきにくい側にあります。

原因を並べる工程と、要否を決める工程

どの原因で権利が動いたのか、これから動かす分はどの条文の入口に当たるのか。登記事項証明書の原因欄と、地目・現況を突き合わせて、原因ごとに許可と届出のどちらが掛かる形かを一覧にするところまでは、説明と記名の手前で切り出せます。許可が下りるかどうかの見通しも、過去の移転が有効かどうかの評価も、農業委員会と依頼元、専門の士業に残ります。

確かめられたこと・確かめていないこと

確かめたのは、条文と省令の現在の文言です。農地法3条1項の本文と各号、3条2項1号・4号、3条6項、3条の3、5条1項、64条1号、69条。施行規則15条5号。租税特別措置法70条の4第1項・1項1号・4項。国税通則法50条、国税通則法施行令16条3項。宅地建物取引業法施行令3条。不動産登記令7条1項5号ハ。いずれも原文を読んでいます。生前一括贈与という制度の輪郭は国税庁と農林水産省の案内で、その手順に3条許可の申請が含まれることは自治体の案内で確かめました。

確かめていないことが三つあります。一つは、贈与が3条1項本文にいう「所有権を移転し(中略)する場合」に当たると正面から書いた国の文書です。農林水産省の農地制度のページ、国税庁の案内、納税猶予のあらましを当たりましたが、見つけられませんでした。この記事の結論は条文の文言からの帰結で、自治体の案内がそれと同じ向きだった、という形になっています。もう一つは、相続人以外への特定遺贈に許可が要るという点で、これは施行規則15条5号が相手を「相続人に対する特定遺贈」と限っていることの反対解釈です。どちらも、個別の案件では農業委員会に当たって確かめる箇所になります。三つ目は、納税猶予の担保として嘱託された抵当権が、登記事項証明書の上でどう表示されるかです。条文で確かめたのは嘱託の仕組みまでで、実際の記載例は見ていません。

参照した一次情報

上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。