「自ら貸借」に免許が要らない理由
- 公開
- 2026年8月29日
- 更新
- 2026年9月24日
- 法令・制度の確認
- 2026年9月24日 時点
賃貸の媒介で、貸主欄に登記上の所有者とは別の会社が入っていることがあります。転貸なのか、その会社に免許は要るのか、重要事項説明書は誰が作るのか。順に確かめようとすると、まず出てくるのが「自ら貸借に免許は要らない」という言い方です。結論としては正しいのですが、理由をたどると、免許が何に付いている制度なのかが見えてきます。
定義文は、貸借を片側にしか置いていない
宅地建物取引業法3条1項は、免許を受けなければならない者を「宅地建物取引業を営もうとする者」と定めています。ですから免許の要否は、その行為が宅地建物取引業に当たるかどうかで決まります。その定義は2条2号にあります。
宅地建物取引業 宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うものをいう。
一文で読みにくいのですが、「又は」で二つに割れています。前半が「宅地若しくは建物の売買若しくは交換」、後半が「宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介」です。前半は自ら取引の当事者になる行為、後半は他人の取引に代理・媒介として関与する行為を指しています。
そして、前半に並んでいるのは売買と交換の二つだけです。貸借は後半にしか出てきません。自ら貸主になる行為は、この定義文のどこにも入っていないことになります。
| 区分 | 自己物件 | 他人の物件の代理 | 他人の物件の媒介 |
|---|---|---|---|
| 売買 | ○ | ○ | ○ |
| 交換 | ○ | ○ | ○ |
| 貸借 | × | ○ | ○ |
○が免許を要する行為で、自己物件の貸借だけが×です。ここで見ておきたいのは、この表が主体ではなく行為で割られていることです。免許は会社や個人に対して与えられますが、免許が要るかどうかは、その者が何をしたかで決まります。
転貸が「自ら貸借」の側に入る理由
転貸では、所有者から建物を借りた事業者が、それを入居者へ貸します。この事業者は、入居者との関係では貸主です。契約の当事者として自ら貸しているのですから、代理でも媒介でもありません。先ほどの表でいえば「自己物件の貸借」の欄に落ち、免許を要する行為には当たらない、という結論になります。
ただし、条文に「転貸」と書いてあるわけではありません。これは、2条2号の定義文と、転貸人が転借人に対して貸主の立場に立つという契約の構造を重ねた解釈です。「転貸に免許は要らない」と明確に述べた国の文書は、探した範囲では見つけられませんでした。
転貸そのものを扱っているのは民法612条です。
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
承諾のない転貸は、同条2項で賃貸人の解除事由になります。免許の要否とは別に、原契約に転貸の許諾があるかどうかを確かめておく必要があるのはこのためです。
つまずく点
免許の要る行為と要らない行為が、同じ会社の中に並ぶ
免許は行為に付くので、一つの会社が媒介と転貸を並行していれば、扱う物件ごとに適用される条文が変わります。「あの会社は免許業者だから」も「免許を持っていないから」も、目の前の物件についての答えにはなりません。見るのは、その物件でその会社が何になっているか、つまり貸主なのか媒介なのかです。
重要事項説明の義務者が入れ替わる
35条1項が説明を義務付けている相手は宅地建物取引業者です。転貸人が自ら入居者と契約するなら、その行為は宅地建物取引業ではありませんから、35条の義務はそこには生じません。一方、転貸人が入居者の募集を他社に依頼すれば、その他社は貸借の媒介をしていることになり、35条の義務者になります。同じ建物でも、募集の経路が変わると誰が書面を作るのかが変わります。
免許が要らなくても、転貸の事業には別の法律が掛かる
自ら貸借が宅地建物取引業から外れても、転貸を事業にする者が規制の外に出るわけではありません。賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)は、転貸する事業を営む目的で結ぶ賃貸住宅の賃貸借を「特定賃貸借契約」、それに基づいて転貸する事業を営む者を「特定転貸事業者」と定めています(2条4項・5項)。特定転貸事業者には、誇大広告の禁止(28条)、不当な勧誘の禁止(29条)、契約を結ぶ前の書面の交付と説明(30条)が課されます。
ただし、30条の説明の相手は、特定賃貸借契約の相手方となろうとする者、つまり所有者の側です。入居者ではありません。30条の書面は、入居者に対する35条の説明の代わりにはなりません。
「転貸」と呼んでいても、行為が媒介であれば別
事業者が契約の当事者にならず、所有者と入居者との間を取り持っているのであれば、行為としては媒介です。どちらに当たるかは、契約書の当事者欄だけでなく、賃料の流れや解約権の所在まで見ないと分かりません。
原賃貸借が終わったときの転貸借
民法613条3項は、賃貸人が賃借人との賃貸借を合意により解除しても、そのことを転借人に対抗できないとしています。ただし、解除の当時に賃貸人が債務不履行による解除権を持っていたときは、この限りではありません。転借人の側に立つ取引では、原賃貸借の残存期間と解除事由の有無が、転貸借の見通しにそのまま効いてきます。
どこまでが記録で、どこからが判断か
どの条文が掛かるかは、次の五つの事実で決まります。登記と国土交通省の検索システムで確かめられるのは、そのうち一部です。
| 事実 | 何を分けるか | どこで確かめるか |
|---|---|---|
| 登記上の所有者と、契約書の貸主が同じか | 貸主が自ら貸すのか、借りたものを転貸するのか | 所有者は登記事項証明書で確かめられます。貸主の賃借権が登記されていなければ、貸主が借りていることは登記からは分からず、原賃貸借の契約書を見るまで要確認です。 |
| 原賃貸借に転貸の承諾があるか | 民法612条2項の解除事由を抱えていないか | 原賃貸借の契約書か、所有者の承諾書によります。写しが出てこなければ確認不能です。 |
| 転貸人が契約の当事者になるのか、所有者と入居者の間を取り持つだけか | 自ら貸借か、貸借の媒介か(2条2号) | 契約書の当事者欄に加えて、賃料の流れと解約権の所在まで見ます。当事者欄だけでは決まらず、要確認のまま残ることがあります。 |
| 入居者の募集を誰がしているか | 35条の義務者が誰になるか | 媒介する会社の宅地建物取引業の免許は、国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムで、大臣免許・知事免許とも引けます。 |
| 原賃貸借が特定賃貸借契約に当たるか | 賃貸住宅管理業法28条〜30条が転貸人に掛かるか | 転貸事業を営む目的か、転貸人が所有者と密接な関係にある者として除かれていないかは、契約書と当事者の関係によります。同じ検索システムで賃貸住宅管理業者の登録(3条)は引けますが、登録は管理業務に対するもので、特定転貸事業者かどうかを示すものではありません。 |
所有者と募集する会社の免許は公の記録で確かめて書けますが、貸主の権原、転貸の承諾、当事者どうしの関係は、原賃貸借の契約書と当事者の側にあります。納品物の見本のチェックリストで、確かめた事項と確かめられなかった事項を分けて残しているのは、こうした空欄を埋めたように見せず、空欄のまま渡すためです。
誰が貸主で、原契約に転貸の許諾があり、募集を誰がするのか。これを登記事項証明書と契約書から拾い、どの法律のどの条文が掛かる構造なのかを一覧にするところまでは、説明と記名の手前で切り出せます。一方、免許を要する行為に当たるかどうかの評価も、契約条項をどう読むかも、依頼元と専門の士業に残ります。記録を揃える工程と、判断する工程は、分けて置くことができます。
確かめられたこと・確かめていないこと
- 確かめたこと ── 上に引いた宅地建物取引業法・民法・賃貸住宅管理業法の条文は、この記事の確認日時点の現行条文を e-Gov 法令検索で確認しました。
- 確かめていないこと ── 「転貸」と称する取引が行為としては媒介にあたると評価された裁判例・処分例は確認していません。
- この記事は一般的な条文の関係を整理したもので、個別の事案についての判断ではありません。実際の取扱いは、契約書と登記記録に即して、依頼元の宅地建物取引士および専門の士業のご判断によります。
参照した一次情報
- 宅地建物取引業法 第2条第2号・第3条第1項・第35条第1項(e-Gov法令検索)
- 民法 第612条・第613条(e-Gov法令検索)
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律 第2条・第3条・第28条〜第30条(e-Gov法令検索)
- 建設業者・宅建業者等企業情報検索システム(国土交通省)
- 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方 令和8年4月1日施行版(国土交通省)
上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。