賃貸借に期間を定めて更新する理由 ── 更新しないと何が起きるか
- 公開
- 2026年10月2日
- 法令・制度の確認
- 2026年10月2日 時点
管理している物件の期間満了が近づくと、貸主から「更新の書類を交わさないとどうなるのか」と聞かれることがあります。そもそも、なぜ賃貸借には期間があり、満了のたびに更新するのでしょうか。条文に戻ると、期間も更新も法律が求めているものではないことが分かります。そのうえで、期間を定めると何が変わり、更新の手続を取らないと何が起きるのかを、貸主と借主の両方から整理します。
期間を定めると、何が変わるのか
民法617条は、期間を定めなかった賃貸借について、各当事者がいつでも解約の申入れをすることができると定めています。期間の定めのない賃貸借も、契約としては有効です。期間を置くかどうかは、当事者が選んでいます。
期間を定めた場合と定めなかった場合で、契約を終わらせる道筋が変わります。
| 終わらせる側 | 期間の定めのない契約 | 期間を定めた契約 |
|---|---|---|
| 借主 | 解約の申入れから3か月で終了(民法617条1項2号) | 期間中は解約の申入れで終わらせられない。解約する権利を留保する特約があれば、その定めによる(民法618条) |
| 貸主 | 解約の申入れから6か月で終了(借地借家法27条1項)。申入れには正当の事由が要る(同法28条) | 期間中は解約の申入れで終わらせられない。満了時に更新を拒むにも、正当の事由が要る(同法26条1項・28条) |
期間を定めると、期間中はどちらからも一方的に終わらせにくくなります。借主にとっては住み続けられる見通しが、貸主にとっては賃料収入の見通しが立ちます。そして満了は、賃料や特約を見直し、続けるかどうかを互いに確かめる節目になります。期間と更新は、この安定と節目を得るために当事者が置いているものです。
期間の長さについて借地借家法が定めているのは、下限と上限の扱いだけです。1年未満の期間は期間の定めがないものとみなされ(29条1項)、存続期間を50年までとする民法604条は建物の賃貸借には適用されません(29条2項)。何年にするかは、その範囲で当事者が決めています。
更新の手続を取らなくても、契約は続く
期間を定めた建物賃貸借は、満了日が来ても自動的には終わりません。借地借家法26条1項は次のように定めています。
建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
更新の合意書を交わさず、通知もしないまま満了を迎えると、契約は従前と同一の条件で更新されたものとみなされます。いわゆる法定更新です。同条2項により、通知をしていても、満了後に借主が使用を続け、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときも同じ扱いになります。
見落としやすいのは、1項のただし書きです。法定更新された契約は、期間の定めのない契約になります。条件は従前のまま引き継がれますが、期間だけは引き継がれません。前の節の表でいえば、右の列から左の列へ移ることになります。
なお、これらの規定に反する特約で借主に不利なものは無効です(30条)。「満了したら当然に終了する」と普通の賃貸借の契約書に書いても、その条項で契約を終わらせることはできません。
法定更新のあと、貸主と借主に残るもの
更新の手続を取らないことで得るものと失うものは、貸主と借主で分かれます。
| 貸主 | 借主 | |
|---|---|---|
| 得るもの | 合意書の作成や署名のやり取りが要らない。入居が続くので空室は出ない | 3か月前の申入れで退去できる(民法617条1項2号)。更新料の条項があっても、法定更新の場合に支払う義務が生じるかは条項の文言による |
| 失うもの | 賃料や特約を見直す合意の場がなくなる。借主がいつ退去するか見通しにくくなる。解約の申入れには引き続き正当の事由が要る | 期間中は貸主から解約の申入れを受けない、という期間の保護がなくなる。古い契約書の条件がそのまま残り、どの条項が生きているか分かりにくくなる |
貸主にとって、法定更新は契約を終わらせやすくなることを意味しません。期間の定めのない契約になれば、貸主はいつでも解約の申入れができるようになりますが、28条の正当の事由は変わらず求められます。一方で借主は、3か月前の申入れで出られるようになります。拘束が緩むのは、主に借主の側です。
賃料については、更新を待つ必要はありません。借地借家法32条1項により、租税の増減や経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料との比較で不相当となったときは、契約の条件にかかわらず増減を請求できます。ただ、請求と合意は別の手続で、満了時の更新協議のような決まった場の代わりにはなりません。
つまずく点
更新料の条項と法定更新
更新料については、最高裁判所の平成23年7月15日判決があります。賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項は、更新料の額が賃料の額や更新される期間などに照らして高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条により無効とはならない、という判断です。ただしこの判決は、条項の有効性についてのものです。法定更新の場合にも更新料を支払う義務があるかは、条項がどの更新を対象にしているかという文言の問題になり、この判決だけでは決まりません。
保証・保険は、賃貸借とは別の契約
連帯保証、家賃保証会社との保証委託契約、借主が入る火災保険は、賃貸借とは別の契約です。それぞれが自分の期間と更新の条件を持っています。賃貸借が法定更新で続いていても、保証会社との契約や保険が期間満了で切れていることがあり、更新の手続を取らないと、その切れ目に気づく場面がなくなります。民法619条2項は賃貸借の黙示の更新について従前の担保が期間満了で消滅すると定めていますが、建物の法定更新は借地借家法26条によるもので、保証がどう扱われるかは保証契約の文言と裁判例に即して確かめる必要があります。
「更新しない」は「終わる」ではない
貸主が更新しない旨を通知しても、28条の正当の事由がなければ通知としての効力を持ちません。期間の満了で確実に終わる契約にしたいなら、普通の賃貸借ではなく、38条の定期建物賃貸借を選ぶことになります。定期建物賃貸借は、書面(電磁的記録を含みます)によって契約すること(1項・2項)と、契約の前に、更新がなく期間の満了で終了する旨を記載した書面を交付して説明すること(3項)が要件です。説明をしなかったときは、更新がないこととする旨の定めは無効となります(5項)。
契約書から拾えること、拾えないこと
期間と満了日、更新条項と更新料の定め、解約予告の特約、定期建物賃貸借の書面の有無、それに保証・保証会社・保険の期間。これらを契約書と関係書類から拾い、いまの契約がどの条文によって続いているのかを一覧にするところまでは、説明と記名の手前で切り出せます。正当の事由があるか、更新料を求められるかの判断は、依頼元と専門の士業に残ります。記録を揃える工程と、判断する工程は、分けて置くことができます。
確かめられたこと・確かめていないこと
- 確かめたこと ── 上に引いた借地借家法・民法の条文は、この記事の確認日時点の現行条文を e-Gov 法令検索で確認しました。平成23年7月15日判決の判示事項と裁判要旨は、裁判所ウェブサイトで確認しました。
- 確かめていないこと ── 法定更新の場合に更新料の支払義務が生じるかについての裁判例は確認していません。法定更新の後に保証人の責任が及ぶかについての裁判例も、原典を確認できていません。
- 確かめていないこと ── 居住用の賃貸借で特定の年数の期間が多く用いられている理由については、一次情報を確認していません。この記事では、期間を定めること自体の意味だけを扱っています。
- この記事は一般的な条文の関係を整理したもので、個別の事案についての判断ではありません。実際の取扱いは、契約書に即して、依頼元の宅地建物取引士および専門の士業のご判断によります。
参照した一次情報
- 借地借家法 第26条〜第30条・第32条・第38条(e-Gov法令検索)
- 民法 第617条〜第619条(e-Gov法令検索)
- 最高裁判所第二小法廷 平成23年7月15日判決 平成22(オ)863(裁判所ウェブサイト)
上の確認日は、この記事を書いた時点で制度・様式を確かめた日です。 以後の改正までは追い切れていない場合があります。実務でお使いの際は、 必ず出典元の最新版をご確認ください。